作品紹介『オハナホロホロ/鳥野しの』
ご紹介するのは、『オハナホロホロ』という作品です。
Twitterで【百合作品 おすすめ】と検索したのが、出会ったきっかけでした。該当するツイートは山ほどありました。やってみるものです。
全6巻で完結を迎えますが、ここでは、主に1巻1話の内容についてざっくりと書いていきたいと思います。
※ネタバレを含みますのでご注意ください。
※また、同性愛に関して不快な気持ちを抱く方には、この先の記事及びこの作品を読むことをお勧めしません。
【メイン登場人物】
南雲麻耶(なぐも まや)
雨宮親子と暮らす翻訳家。しっかり者のお姉さん体質。
雨宮みちる(あまみや みちる)
麻耶と暮らすシングルマザー。子どもっぽく甘えたがり。
雨宮ゆうた(あまみや ゆうた)
みちるの息子。もの静かだが、大人の動向に敏感。
日下ニコ(くさか にこ)
麻耶たちの階下に住む若手俳優。
表紙同様、1ページ目ではたっぷりのやさしい色が、温かい雰囲気のイラストが、読者を迎えてくれます。
これを見た私は確信しました。
「あぁこれはきっと、『家族』を主題にした作品なのだ」 と。
「オハナ」はハワイの言葉で「家族」という意味なのはご存知でしょうか。本当はもっと広い意味で使われるそうです。幼いころに見ていた「リロ&スティッチ」の中で、「オハナ!」がたくさん飛び交っていた記憶があります。
ちなみに、「ホロホロ」を調べると、「ぶらぶら散歩する」というような意味でした。
先ほどの人物紹介を見ると、俗にいう「家族」と呼べるような(血縁関係がある)間柄の人間は、みちるとゆうたの2人だけです。しかし物語を読み進めていけば、この4人を「オハナ」たらしめるものがきっとわかるはずです。
みちるの息子ゆうたを中心に、3人の大人は笑ったり、悩んだり、……そんな日々の中で彼女たちはお互いの縁――因果とも言えるような、“出会いの意味”を知っていくことになります。
*ここからは1話の中に出てくる言葉を抜粋しながら、登場人物の人となりについて紹介していきたいと思います。*
みちるとは 5年くらい前まで一緒に暮らした
次に会った時 みちるには立派なコブがついていた
作品の冒頭の部分です。みちると麻耶は昔、2年間ほど同棲をしていましたが、みちるはとつぜん麻耶の前から姿を消します。数年ぶりに再び出会ったみちるは、“ゆうた”という小さな男の子の母となっていました。ゆうたの父親は今はいません。
そもそもおまえら全員 赤の他人じゃん!!
マンションの一室に集い団欒する雨宮母子、同居人の麻耶、そして階下の部屋に住むニコ。麻耶とニコが、まるでゆうたが自分の子であるかのように振る舞っている状況に、みちるは思わずツッコミを入れます。
もーこの“ギュー”で 百の疲れもふっとぶよな!!
ゆうたを溺愛するニコ。
麻耶たちの部屋の“灯り”につい引き寄せられるのだと言います。
若いころ みちるはケモノのようにホンポーで
ケモノのように さみしがりやで
さみしくなると男でも女でもおかまいなしで
そのくせ声に出してはひとことも
「さみしい」とは言わなかった
私は それが さみしかった
麻耶のモノローグです。若いころのみちるは、さみしさを感じると性別を問わず人と肌を合わせていました。かつての麻耶も、みちると肉体関係がありました。しかしそれは麻耶にとって、どこか物悲しさを感じさせる同衾だったのでした。
ねえ まやちゃん チューしていい?
ふたたび一緒に暮らしはじめた麻耶とみちる。みちるは麻耶の眠る布団に潜り込み、こう問います。
けれど麻耶の答えはNO。今回の同居に関しては“そういうの”はしない約束だと断ります。
甘いよ 子ども産んだくらいで大人になんかなれるかっつーの
大人げない言動が目立つみちるは、お世辞にも1児の母に見えるとは言えません。
ふつうのお母さんはできることが、自分はできない。という劣等感を、やめられなかったタバコの煙とともに吐き出します。
落ち込むみちるの横顔を見た麻耶は、みちるが“迷子”になっているのだと気づきます。
目の前には朝日が差し込む街並み。麻耶は、その眺めを誰かと見るなら、みちるしか思い浮かばなかった。と言います。
そして、つい先刻みちるのキスを断ったにもかかわらず、みちるに“友情の口づけ”をする麻耶。2人の関係をはっきりと表せるような言葉は、この瞬間にはないように思えました。
ゆうた! あーん!
何がきっかけだったのかは明らかです。みちるはいつもの調子を取り戻し、ゆうたに“お母さん”をします。
ほんとうにざっくりと、1話だけご紹介しました。いかがでしたでしょうか。私のつたない文章ですが、少しでもこの作品の魅力が伝わればいいなと思います。私の手では綴りきれないような深いストーリーが、ぎっしり、ぎっしり詰まっています。ここまで人をあたたかな気持ちにしてくれる作品に、私は初めて出会いました。
「オハナホロホロ」は私に、血よりも濃い絆もあるのだということを教えてくれました。最後まで読み終えてだいぶたった今も、この記事を書きながら目の奥が熱くなるのを感じています。
つのり続けるこの気持ちをどうしてもまとめられないので、ここで筆を置くことにします。ここまで読んでくださりありがとうございました。